|
自分の視界の外、右下の視界の外から、真っ赤な光が、止まった時間の中で急に拡大した。
別にこれと言って目的を持って東京に来たわけでは無かったんだ。ただ、自分が生まれ育った家庭、自分が生まれ育った町が嫌いだった、一度だって居心地がいいと感じた事は無かった、だから、その町から離れたかっただけなんだ。
相手の右ガードが空いた隙をついて、僕は素早く踏み込み、モーション無しでジャブを出した。相手の顔の右の頬を狙って。そのジャブを相手が右にかわし、つまり自分の左側によけるところを狙って右のストレートを出すつもりだった。それは相手の顎を打ち抜き、相手が倒れる。その映像も明確に浮かんだんだ。
だけどその映像が消える前に、自分の右下の視界の外から、真っ赤なグローブが突然近づいて、大きくなって、次の瞬間見えたものは、天井の眩しいライトだった。
『まだやれる。おれはまだやれるんだ。』。声に出ていたかどうか覚えていない。ただ、レフェリーに必死にアピールしたのに、レフェリーは大きく両手を交差させながら振った。
俺の時間はそれで終わった。
|